夜露死苦チャリ
中学二年の夏、俺の単車は26インチ
※今日は疲れたので頭が回らないので、てきとうな記事です!忙しい人は時間の無駄なので読まないでください。
覚醒《めざめ》
中学二年の夏、俺は兄貴の部屋で一冊の漫画を盗み読みした。『疾風伝説 特攻の拓』である。
雷が落ちた。
「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった」という台詞の意味は正直よく分からなかったが、分からないなりに、とにかく痺れた。
分からないものほど格好良く見えるのが中学生という生き物だ。俺はその足で古本屋に走り、『湘南純愛組!』と『カメレオン』を買い込み、夏休みの宿題そっちのけで読破した。
漫画の中の先輩たちは強かった。喧嘩が強いというより、生き方が強かった。誰にも頭を下げず、仲間のためなら血を流し、そして何より単車が、死ぬほど格好良かった。
三段シート。ロケットカウル。天に向かって反り返る竹槍マフラー。四連ホーンが夜の国道に響き渡る。あれは乗り物ではない。魂の乗り物、いや、魂そのものだった。
当時の俺は、身長158センチ、体重44キロ。腕相撲はクラスで下から三番目。廊下で三年の先輩とすれ違うだけで自動的に壁側へ避けるタイプの人間だった。弱い奴ほど強さに憧れる。強さの象徴が、俺の場合「単車」だった。
第二章 黄金の獣《ゴールデンビースト》
その年の夏、決定的な事件が起きる。
塾の帰り、国道沿いのコンビニの駐車場に本物がいた。爆音を鳴らし、現れた数台の単車。
街灯の下で、金色に塗られたCBXが停まっていた。
背もたれのように高くそびえる三段シートには、白い文字で「夜露死苦」。
フロントには鋭く突き出したロケットカウル。ハンドルは絞り上げられた鬼ハン。マフラーは俺の身長より高く天を突いていた。
紛れもなくこの単車は黄金の獣、ゴールデンビーストだった。
俺は自販機の陰から、心臓をバクバクさせながらそれを見ていた。
怖かった。怖かったのに、目が離せなかった。美しいとすら思った。
家に帰った俺は、学習机の引き出しから五冊セット98円のノートを一冊おろし、表紙にマジックでこう書いた。
「単車設計書(極秘)」
第三章 極秘設計書《魂のブループリント》
それから二週間、俺は毎晩、設計書の執筆に没頭した。数学のコンパスと三角定規を初めて本気で使った。授業では一度も本気を出したことがない道具たちが、机の上で輝いていた。
ページをめくると、まず全体図。ママチャリの側面図に、矢印と注釈がびっしり書き込まれている。
「鬼ハン → ハンドルを上向きに絞る。工具:親父のレンチ、トンカチ。※親父にはバレないこと」
「三段シート → ダンボールで芯を作る。高さ約80cm。黒のビニールテープで全面をぐるぐる巻きにして革に見せる。文字は白で『夜露死苦』」
「ロケットカウル → 前カゴに装着。形状は要検討」
「竹槍マフラー → 後輪横に二本、45度で天に向ける。夜、光るとなお良し」
「四連ホーン → ラッパ×4を前カゴ下に固定。※音は出なくても見た目重視」
「フサフサ → ハンドルから金色のテープを大量に垂らす。走ると風になびく(重要)」
寸法はすべて目測だった。CBXのホイールベースなど知る由もないので、「だいたいこれくらい」の線を定規で引き、小数点第一位まで書き込むことで精密さを演出した。中学生の設計書とは、正確さではなく本気度で書くものである。
最後のページには、こう書いた。
「完成したら、俺はもう昨日までの俺じゃない。」
第四章 100均という武器庫
予算は、貯めた小遣いとお年玉の残り、締めて二千三百円。単車なら数十万の改造費が、俺の場合は百円ショップで完結する。むしろ完結させるしかなかった。
日曜の朝、開店と同時にダイソーに突入した俺は、設計書を片手に店内を三周した。
まず応援グッズコーナーで、黄色いプラスチックのラッパを四つ。四連ホーンの材料である。四つ全部同じ黄色であることを棚の前で入念に確認した。統一感こそ族車の命だ。
次にパーティーコーナーで、金色の銀テープをふた巻き。「金色なのに銀テープとはこれいかに」と一瞬思ったが、深く考えるのはやめた。アイドルのコンサートで天井から降ってくるアレだ。これをハンドルから滝のように垂らせば、走るたびに風になびく。漫画で見た、あの風防のフサフサになる。
文具コーナーで白と黄色のビニールテープ。車体のラインを入れるためだ。族車のタンクには炎が描かれているが、俺に炎は描けない。しかしテープなら、貼れる。黒の太いビニールテープも忘れずにカゴへ入れた。三段シートの「革」になる予定の男だ。
そして最大の誤算にして最大の収穫が、防犯コーナーにあった。
誘導棒。
工事現場でおじさんが振っている、あの赤く光る棒が二本で二百円。手に取った瞬間、脳内で雷が鳴った。
「これ……竹槍マフラーじゃん……しかも光るじゃん……」
本物の竹槍は光らない。俺のは光る。つまり本物を超えた。理論上そうなる。
レジのおばちゃんが「おつかいかい?」と聞いてきた。俺は「まあ、そんなとこです」と答えた。戦(いくさ)の準備です、とは言えなかった。
ロケットカウルだけは、百均では調達できなかった。代わりに俺の部屋には、去年UFOキャッチャーで三千円溶かして取った、口をあんぐり開けた黄色い鳥の人形があった。設計書の「形状は要検討」の欄に、俺はこう書き足した。
「→ 鳥でいく」
流線型で、黄色で、前を向いている。ロケットカウルの三要素をすべて満たしていた。満たしていると、当時の俺は本気で思った。
第五章 制作3日《戦場の物置の裏》
制作3日。戦場は物置の裏。
初日、鬼ハン。親父のレンチを無断拝借。ボルトを緩め、ハンドルを限界まで絞り上げる。まだ足りない。トンカチを握る。カンッ。カンッ。一打ごとにハンドルが天を向く。俺の魂も天を向く。近所の犬が吠える。構うか。これは暴走の前奏曲だ。仕上がったハンドルは、ほぼ真上。握れば万歳。ブレーキに指が届かない。些細な問題だ。
二日目、三段シート。ダンボール三枚。切る。重ねる。針金で荷台に固定。横から見ればペラッペラ。だが、ここからだ。黒のビニールテープをぐるぐる、ぐるぐる、隙間なく巻く。
一時間後、黒光りする三段シートがそこにいた。触らせなければ革だ。仕上げは白のマジックで、渾身の「夜露死苦」。三度しくじる。黒テープで巻き直す。四度目、魂がこもった。
三日目、総仕上げ。フレームに白と黄のライン。前カゴの下にラッパを四連装。ハンドルから金色の銀テープを何十本も垂らす。後輪の脇に誘導棒、二本、45度。
最後に、前カゴへ、黄色い鳥。
俺のロケットカウルは、口を開けて絶叫していた。
第六章 夜露死苦爆誕、そしてリアルとの死闘
土曜の夕方、夕日を浴びて、俺の「単車」がそこに立っていた。
天を突く鬼ハン。黒テープでぐるぐる巻かれ白字の「夜露死苦」が光る、ペラペラの三段シート。黄色いラッパの四連ホーン。風を待つ金色のフサフサ。斜め45度の誘導棒二本。そして先頭で叫び続ける、黄色い鳥。
俺は震えた。感動で震えた。意気揚々と夕暮れの町へ漕ぎ出した。
そして、俺を待っていたのは、現実だった。
まず鬼ハンのせいで、常時バンザイしながら漕ぐことになった。降参しながら走る族車が世界のどこにあるだろうか。
三段シートは走り出して三十秒で風にあおられてベコッとしなり、夜露死苦の「苦」が文字通り苦しそうに折れ曲がった。
金色の銀テープは風になびくどころか俺の顔に絡みつき、視界を奪った。
ラッパは段差のたびにカポカポと間の抜けた音を立てた。爆音の代わりに、カポカポ。
誘導棒だけは、律儀に赤く点滅していた。おかげで俺は、暴走族どころか、日本一交通安全な中学生になっていた。
商店街の入り口で、同じクラスの女子二人組と、正面から目が合った。
三秒の沈黙。
それから、彼女たちは腹を抱えて笑った。「何それー!」「鳥が叫んでる!」
通りすがりのじいさんは誘導棒を見て「兄ちゃん、この先、工事か?」と真顔で聞いてきた。
喧嘩上等の魂を積んだ俺に町中の誰一人として喧嘩を売ってこなかった。
むしろ全員が優しかった。





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