あの頃の私はチャラ男だった。マッチングアプリと本物の彼女を追い求め。
世の中には、女性から絶対悪として君臨する存在がいる。
そう、チャラ男だ。
この言葉を耳にした瞬間、女性は心のシャッターを、ガラガラと下ろす。問答無用である。だが、世の人々は、その「結果」しか見ていない。
チャラ男は、ある日突然生まれるのではない。
千里の道も、幼稚園の先生から
私の憧れは、幼稚園の先生から始まった。
若く、優しく、絵本を読み、砂場で一緒にトンネルを掘ってくれる女性。
母以外の女性に、初めて母性を感じた。
まだ「好き」という感情の名前すら知らない。
ただ、給食の時間、先生がそばに来るだけで、なぜか牛乳をこぼした。それだけだ。
小学校に上がる。対象は、近くの席の女の子に移る。
好みではない。距離である。そして、ここで人類は最初の分岐を迎える。
クラス30人。女子15人の視線が、おおよそ1〜2名の男子に集まる。
足が速いやつと、面白いやつだ。
私は、まだ気づいていない。自分が「残りの男子」であることに。
そして、まだそのことに、興味すらない。平和な時代だった。
新規記事の通知を受け取るために登録してね!
石の上にも三年、教室の隅で三年
中学に上がる。思春期の開幕だ。
学校のアイドルが出現する。女子からいい匂いがする。
みんな少しずつ大人びた体になっていく。私はただ、その光景を指をくわえて見ていた。
ここでも全部を掻っ攫っていくのは「速い、面白い、かっこいい」やつだ。
フォーマットは小学校から何も変わっていない。
大学に入る。いよいよ「モテたい」が臨界点に達する。
髪型を変える。服を変える。けなげに、モテへの道を歩み始める。
そして、悲しい現実に直面する。
自分が進化しても、まだ、やつがいる。
「速い、面白い、かっこいい」は、
「賢い、強い、面白い、かっこいい」に進化していた。
属性が一個増えていた。
そう、モテ男である。
こちらがレベルを上げると、向こうは転生していた。
渡る世間は、戦場でばかり
耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、努力をした。それでも、まだ指をくわえて待つのか。
俺の人生はこのままで終わらない。素敵な彼女を作るんだ!!
問題はどこで戦うかだ。リアルの世界にはモテ男がいる。転生したやつがいる。
同じ土俵で戦えば、結果は、あの時と同じ教室の隅だ。
そして、神が降臨する。
マッチングアプリ。
N対Nの地獄から逃れ、1対1で勝負できる世界。
オアシスだ。私は、まだ見ぬ彼女に恋焦がれ、震える指でアプリを開く。
月額3000円。
一瞬、本気で悩む。
未来の彼女の前で、3000円が壁になってよいのか。
よくない。私は課金した。
プロフィールを設定し、希望の扉が開く。たくさんの女性が表示される。
向こうも彼氏を探しているはずだ。
プロフィールを読み、趣味を調べ、勇気をもって、祈るように右へスワイプする。
……。
………………。
マッチングしない。
気づいていないのかも。もう少し待てば。まだ会話したこともない相手との楽しいデートを、脳内でシミュレートする。
既読スルーされた彼氏のように、5分おきにアプリを開く。
3日後。
ようやく気づく。マッチングしていない。一件も。ここで、私は思い出すべきだった。これは出会いの場ではない。戦場である。
画面の向こうで、同じ女性に右スワイプしている男が、何百人もいる。年収2000万。港区のタワマン23階。なぜか写真が海外で、サーフボードを持っている。
教室の隅から逃げてきたのに、ここにも、転生したやつがいた。
マッチングしないのは、バグではない。世界が、正常に動作している証拠である。
だが、私は気づきたくなかった。
「今回こそ」を、人は何回言えるのか
そうだよな、そんな簡単じゃないよな!
今度は5回だけ、厳選してスワイプする。
ピロン。
「ひろみさんとマッチングしました」
念願の、マッチングである。布団の中で、声を殺してガッツポーズ。ついに、未来の彼女とのメッセージを、踊る心を落ち着かせメッセージを送信。
返ってこない。
三日前に送った「はじめまして!」が、ぽつんと浮いている。
気を取り直し、今度こそ。
右スワイプを50回。
ピロン。
会話が始まる。「週末なにしてるんですか〜」が来る。10分かけて返信し、語尾の「!」を3回直して送る。
何日か続いて、そして、途絶えた。
たぶん、会話した「週末なにしてるんですか〜」の向こうに、サーフボードの男が現れたのだ。戦場とは、そういう場所である。
チャラ男の爆誕、吾輩はバカである
もう好みとか言ってられない。右へ500回。
指が機械になる。顔も見ていない。
質で勝てないなら、量で世界を殴る。
右スワイプの暴力である。
毎日500件。やがて、常に5人とメッセージが走る状態になる。
彼に女性を「選ぶ」力はない。なのに「会える」ことはできてしまう。
ある夜、5人同時に返信を打ちながら、彼は気づく。布団の中で、自分が鼻歌を歌っていることに。
「俺さ、最近モテるんだよね」
居酒屋。生ビール二杯目。声が半音高い。友人は枝豆を口に運び、「へえ」と言った。心の声は描写されないが、ろくなものではない。
打率は1ミリも変わっていない。最初にマッチングゼロだった男と同じ男だ。
打席を500回にしただけ。野球なら不正を疑われる。だが、本人にはわからない。モテた経験のない男が、モテた途端、人格が静かに壊れる。
免疫のない。善悪のないチャラ男の爆誕だ。
そう、私はバカだった。
いい女には、出会えない
ある夜、ふと気づいた。
5人と同時にメッセージしながら、私は誰のことも見ていなかった。プロフィールを読んでいない。趣味を覚えていない。名前すら、あやふやになっていた。画面の向こうに、人間がいることを、忘れていた。
これで、いい女と出会えるはずがない。
私がスワイプし続けた5000回の指は、出会いを求めていたのではなかった。
マッチングという「反応」を求めていた。
承認を数を、ピロン。という音を求めていた。
本当の出会い
理想の彼女を夢見るたびに、同じ情景が浮かぶ。
日曜の昼下がり。名前も知らない喫茶店。向かいに座る女性が、コーヒーカップを両手で包んで、私の話を聞いている。
彼女が少し笑う。その顔を私はちゃんと見ている。彼女も私を見ている。
スマホは、二人ともカバンの中だ。
その情景に、スワイプは一回も出てこない。
ちゃんと向き合うとは、たぶん、そういうことだ。
語尾の「!」を3回直すことだ。
そんなことを想像し


マッチングアプリという戦場を女の立場で渡り歩いた身として非常に楽しく読ませて頂きました♪
教室から転生してる奴wおもしろい🤣
SNS疲れやAI疲れに刺さるのはこういうコンテンツなんだと理解です👀
(もちろんまず知ってもらうためのフックも必要だと思います)
何となく興味あるという人の内面が見れるとファンになる人もいるんでしょうね!
僕はしがないさんのもっとふかーい部分を見たいと思ってしまいました。